分析プロセス:6ステップの全体像
Step 0:トクヤマとは何者か
トクヤマ(4043) — 化学セクターに分類される総合化学メーカー。セメントや化成品が主力だが、半導体材料で複数の世界的寡占ポジションを持つ。
半導体関連製品のポジション
| 製品 | 世界シェア | 用途 |
|---|---|---|
| 高純度多結晶シリコン | 約25%(3位) | ウェーハ原料 |
| 窒化アルミニウム(AlN) | 約70%(1位) | 放熱材 |
| 乾式シリカ | 約50%(1位) | CMP研磨原料 |
| 高純度IPA | アジアNo.1 | ウェーハ洗浄 |
なぜ候補になったか:パウロの投資候補3条件「堀がある × 市場が気づいてない(PER15倍以下) × 線でたどって見つかる」を満たす可能性があった。
Step 1:テーゼv1の構築
因果チェーン
堀4チェック
= 累積的学習効果
比率が極小
垂直統合が△でも、供給枯渇◎と乗数効果◎が強ければ堀は成立する。完璧を待ってたら一生買えない。
セグメント分析:利益レバレッジの発見
電子先端材料は売上の25%だが利益の34%を叩き出している。
PERシナリオ分析
全シナリオでPER15倍以下 — 感度分析クリア
テーゼv1 完成時の5要素
Step 2:ストレステスト — 下方修正
2026年1月30日、トクヤマが通期業績予想を下方修正。営業利益 415億円 → 390億円(-6%)。株価は-12.6%急落。
テーゼ崩壊の判定:前提A/B/Cは崩れたか?
下方修正の主因は化成品セグメントの市況悪化(塩ビ・カセイソーダ)。半導体とは無関係。テーゼ崩壊の判定基準に当てはめると「一時的問題」→ テーゼ生存。
修正後の純利益275億円でもPER約12倍。弱気シナリオ(PER13倍)の範囲内。感度分析が現実の悪材料に耐えた。
教訓
- テーゼを事前に書いてあれば、-12.6%の急落でもパニックにならない
- 「崩壊か一時的か」を前提A/B/Cで即座に判定できる
- 撤退条件を買う前に書く理由:損失回避バイアスを排除するため
Step 3:破壊的検証 — ①が崩壊
発見:シリコンウェーハはAI半導体のボトルネックではない。
真のチョークポイントはCoWoSパッケージングとHBM。ウェーハが足りなくなる前にCoWoSで詰まるため、多結晶シリコンの需要爆発は構造的に起きにくい。
因果チェーンの断裂
数字の裏付け
| 指標 | 数字 | 意味 |
|---|---|---|
| AI半導体のウェーハスタート比率 | 0.2% | 売上の20%を生むが消費量は薄い |
| SUMCO稼働率 | 76% | フル稼働にはほど遠い |
| 3社同時増産 | +26,000t/年 | 需要回復前に供給が増える |
| SEMI 2027年予測 | -6.2% | 本格回復は2028年 |
ウェーハ需要は上限がかかる
Step 4-5:テーゼv2 — 消耗品で安定成長?
①が壊れたが、②③⑤は健在。別の因果チェーンで①を書き直せないか?
IPA vs AlN — 面白いが小さい
| 製品 | 推定利益 | 全社比率 | 1.5倍になると | 全社への上乗せ |
|---|---|---|---|---|
| 多結晶Si | 80億円 | 20% | 120億円 | +40億 |
| IPA | 40億円 | 10% | 60億円 | +20億 |
| AlN | 20億円 | 5% | 40億円 | +20億 |
| IPA+AlN合計 | 60億円 | 15% | 100億円 | +40億(+10%) |
IPA+AlNが両方1.5倍に成長しても、全社利益への上乗せは+10%。PERを大きく動かすインパクトにはならない。
株価を動かすほど強くない
Step 6:最終判定
「良い会社」≠「良い投資先」
堀があってPERが低くても、追い風が全社利益を動かすほど強くなければテーゼは成立しない。
このケーススタディで学んだこと
1. 因果チェーンの各リンクを数字で検証せよ
- 「AI爆需→ウェーハ不足」は定性的にはもっともらしい
- しかしウェーハスタートの0.2%、SUMCO稼働率76%という数字を見れば繋がらない
- 「もっともらしいストーリー」と「数字で裏付けられた因果」は別物
2. ボトルネックの位置が需要波及を決める
- 因果チェーンの途中にボトルネックがあると、その先に需要が届かない
- CoWoSで詰まる → ウェーハは余る → 多結晶Siは不足しない
- L2で学んだ「5大ボトルネック」の知識がここで実践的に効いた
3. 「面白い製品」のインパクトを全社ベースで測れ
- AlN70%独占は魅力的だが、全社利益の5%
- IPAのTSMC囲い込みは面白いが、全社利益の10%
- セグメント分析なしに「この製品すごい!」で買うと罠にはまる
4. テーゼは書いた後に壊しにいけ
- 5要素が全部埋まった時点で満足しない
- 構築 → テスト → 破壊 → 代替 → 再検証 → 判断の6ステップ
- 壊れなかったら本物。壊れたら書き直す。2回壊れたら見送る
5.「買わない」も立派な結論
- フレームワークは「良い銘柄を見つける」ためだけにあるのではない
- 「買うべきでないものを確信を持って見送る」ことにも価値がある
- なんとなく買って後で後悔するより、1日かけて「買わない」と決めるほうが良い