0. フレームワークから実践へ
Phase 1(L1〜L5)ではフレームワークを学んだ。テーゼの5要素を知り、SK Hynixで「③が書けない → 買えない」と判断できた。
Phase 2では自分で企業を見つけて、5要素を全部埋める。
Phase 1 vs Phase 2
| Phase 1 | Phase 2 | |
|---|---|---|
| 企業 | 有名企業(SK Hynix、ASML) | 自分で見つける |
| 数字 | 架空のシミュレーション | 実際のPER・決算データ |
| 判断 | 「買える/買えない」の練習 | 本当に買うかの判断 |
フレームワークは「何を調べるべきか」を教えてくれる。Phase 2は「実際に調べて判断する」。
1. 線でたどる — NVIDIAからの4段
L3で学んだパウロの手法:「この会社が儲かるなら、その上流で誰が必ず儲かるか」を1段ずつたどる。思考ステップの距離が遠いほど、市場が見ていない。
思考ステップの距離とPER
| 段数 | 企業 | 市場の注目度 | PERの傾向 |
|---|---|---|---|
| 0段目 | NVIDIA | 全員が見てる | 50倍超 |
| 1段目 | TSMC / SK Hynix | 多くが見てる | 20〜30倍 |
| 2段目 | TEL / ASML | 半導体好きが見てる | 30〜40倍 |
| 3段目 | 東京応化 / 信越化学 | 一部が見てる | 20〜30倍 |
| 4段目以降 | ??? | ほぼ誰も見てない | 10〜15倍 |
パウロの投資候補3条件「PER15倍以下」に到達するには、3〜4段たどる必要がある。
2. TELの隠れた独占 — コーター/デベロッパー
TEL(東京エレクトロン)はL1で「全方位型の装置メーカー」と学んだ。各工程で1位ではないが、1つだけ事実上独占してる分野がある。
コーター/デベロッパー = ASMLのセット品
| 装置 | 役割 | TELの世界シェア |
|---|---|---|
| コーター | EUV露光の前にフォトレジストを塗る | 約90% |
| デベロッパー | EUV露光の後にパターンを現像する |
ASMLのEUV装置が1台売れるたびに、TELのコーター/デベロッパーも必ずセットで必要になる。
TELの堀4チェック
| チェック | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 世界シェア | ◎ | コーター/デベロッパーで90%独占 |
| 垂直統合 | △ | 複数工程カバーだが川上支配ではない |
| 供給枯渇 | ○ | 塗布/現像の技術蓄積は簡単に代替不可 |
| 乗数効果 | ◎ | 装置代はチップ最終価格のごく一部 |
堀はある。ただしASMLほど完璧ではない。でもそれでいい — ASMLはPER40倍超。TELの堀がASMLほど有名じゃないからこそ、③「なぜ今安いか」が書ける可能性がある。
製造装置セクターの構造的追い風
「一時的なブーム」ではなく「構造的」と言える理由:
| 要因 | メカニズム |
|---|---|
| 工場増設 | AI需要 → TSMC/SK Hynix CapEx拡大 → 装置購入 |
| 工程数増加 | HBM層数増(8→12→16層)、3D NAND(200→300層) → 装置台数/工場が増加 |
| 技術移行 | GAA、High-NA EUV → 既存装置の更新需要 |
| 保守ストック | 設置ベース拡大 → 毎年のサービス収益が積み上がる |
工場の数 × 1工場あたりの装置台数 — L4で学んだ「掛け算の爆発」と同じ構造。
3. 現実のPERを見る — 5社連続「買えない」
フレームワークは「何を調べるべきか」を教えてくれる。でも実際にPERを調べて初めて判断できる。
5社連続「買えない」は失敗ではない
テーゼの規律:③「なぜ今安いか」が書けなければ買わない。
「買えない企業を買わない」ことがフレームワークの価値。5社連続で正しく判断できたなら、それはフレームワークが正しく機能している証拠。
4. テーゼの賞味期限 — パウロと東京応化の実例
パウロは2025年10月に東京応化の分析記事を出していた。そこから2026年2月までに株価は大きく上昇。
同時に「MOR化」「ドライレジスト」という2つの堀崩壊リスクも分析。
市場が追いついた = テーゼの賞味期限が切れた。
テーゼの賞味期限(L5の復習 + 実例)
| 概念 | L5での学び | 今回の実例 |
|---|---|---|
| ③が消える | 市場が追いつくと「なぜ今安いか」が書けなくなる | 東京応化のPERが28.9倍に上昇 |
| 次の手 | 同じ因果チェーンの川上を線でたどる | 東京応化 → さらに上流の材料メーカーへ |
| パウロの速さ | 市場が気づく前に見つけ、追いつかれたら次へ | 2025/10に分析 → 2026/2に賞味期限切れ |
東京応化のテーゼ崩壊リスク
パウロの記事では、堀に対する2つの脅威が分析されていた:
| 脅威 | 内容 | L5での分類 |
|---|---|---|
| MOR化 | 化学増幅型レジスト → メタルオキサイドレジストへの技術パラダイムシフト | 代替技術 = テーゼ崩壊 |
| ドライレジスト | Lam Researchが装置側でレジストプロセスを取り込む(ウェット → ドライ) | 代替技術 = テーゼ崩壊 |
PERが高くて買えない上に、堀自体が崩れるリスクもある。二重の意味で「今は買えない」。
5. 崩れた線をたどらない判断
東京応化にテーゼ崩壊リスクがあるなら、その上流はどうか?
MOR/ドライ化リスク
巻き添えリスク
因果チェーンの途中で堀が崩れるリスクがあるなら、その先をたどっても巻き添えになる。
新しい判断基準
L5では「テーゼ崩壊 = 撤退」を学んだ。Phase 2ではこれを応用:
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 線の途中にテーゼ崩壊リスクがある企業がいる | その先はたどらない |
| 線の途中の企業は堀が健全だがPERが高い | さらに川上をたどる価値あり |
「線でたどれ」と言われたから闇雲にたどるのではなく、因果チェーンの健全性を見て判断する。フレームワークの機械的適用ではなく現実を見た判断。
7. 実践 — トクヤマ(4043)でテーゼ5要素を当てはめる
隠れ半導体銘柄の中で最も確信度が高いとされるトクヤマ。多結晶ポリシリコン世界2位、PER10〜12倍、過去最高益見込み。
トクヤマの基本データ
| 時価総額 | 約3,145億円(中型株) |
| PER(予想) | 10〜12倍 |
| 2026年3月期見通し | 売上3,645億円、営業利益415億円(過去最高) |
| 配当利回り | 8.76%(特別配当含む可能性あり) |
| 半導体関連 | ポリシリコン世界2位 + エッチング液 + 洗浄液 + 現像液 |
| PERが低い理由 | 「化学セクター」として評価。太陽電池用ポリシリコンの中国問題が株価抑制 |
なぜこのセクターか(構造的追い風)
AI需要爆発 → ファブ増設 + 技術移行で半導体材料需要が掛け算で膨らむ
なぜこの会社か(堀)
ポリシリコン世界2位。堀4チェックを回す必要あり — 世界シェア・供給枯渇・乗数効果は有望
なぜ今安いか(PER 10〜12倍)
「化学セクター」として分類 → 半導体材料メーカーとしての再評価が遅れている
どれくらい上がるか(定量評価)
半導体向け売上比率を決算短信で確認が必要。太陽電池用とのミックスが鍵
何が起きたら撤退か
代替技術リスク、中国の太陽電池用ポリシリコン過剰生産が半導体用に波及するシナリオ要検討
3つ埋まって、2つが「調べないといけない」
これがPhase 2の正しい状態。フレームワークは「何を調べるべきか」を教えてくれた:
- ②の検証:堀4チェックを実データで回す
- ④の計算:決算短信のセグメント情報で半導体向け売上比率を確認
- ⑤の設定:代替技術リスク・中国リスクの具体的シナリオを書く
テーゼを書くとは「調べること」。フレームワークが優秀なのは、「何を知らないか」を教えてくれるところ。
8. Phase 2 第1回のまとめ
今日起きたこと
| # | アクション | 使ったフレームワーク |
|---|---|---|
| 1 | NVIDIAから4段たどった | L3「線でたどる」+ L3「思考ステップの距離」 |
| 2 | TELの堀4チェックを回した | L3「堀4チェック」 |
| 3 | 5社連続で「買えない」と判断 | L5「③が書けなければ買わない」 |
| 4 | 東京応化の代替技術リスクを判定 | L5「テーゼ崩壊 vs 一時的問題」 |
| 5 | 崩れた線をたどらない判断 | L5撤退条件の応用 |
| 6 | PERが低い構造的理由を分類 | L3「市場認知ギャップ」+ L4「織り込み度」 |
| 7 | トクヤマで5要素を当てはめ | L5「テーゼ5要素」すべて |
Phase 1の全フレームワーク(L1〜L5)が統合的に使われた。これがPhase 2の目的:「知ってる」から「使える」へ。
🧠 セルフチェック
Q1: NVIDIAから3段たどった先に東京応化がある。東京応化のPERが28.9倍だった。次にどうするか?
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③「なぜ今安いか」が書けない → 東京応化は買えない。次は同じ因果チェーンのさらに川上をたどるか、別の線を探す。ただし東京応化にはテーゼ崩壊リスク(MOR化・ドライ化)があるため、その上流をたどるのはリスクが高い。別の線を選ぶべき。
Q2: TELのコーター/デベロッパーの世界シェアは約何%か?なぜこれが投資判断に重要か?
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約90%で事実上独占。ASMLのEUV装置とセットで必ず必要なため、EUV装置の販売台数に正比例して需要が生まれる。「全方位型 = 器用貧乏」という市場の印象とは裏腹に、特定分野で強い堀を持っている。
Q3: PERが15倍以下の企業が存在する「構造的な理由」を3つ挙げよ。
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(1) セクター分類の見落とし — 本業のイメージで半導体と認識されない(例:セメント会社のLN変調器)。(2) 化学セクターの割引 — 化学会社全般のPER水準に引きずられる(例:トクヤマ)。(3) 小型株ディスカウント — 機関投資家のカバー対象外で流動性が低い。いずれも市場のメンタルモデルが原因で、簡単には消えない。
Q4: 因果チェーンの途中で堀崩壊リスクがある企業がいた場合、その上流をたどるべきか?
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たどるべきではない。因果チェーンの途中で堀が崩れると、上流の企業も巻き添えになる。例:東京応化のフォトレジストがMOR化で置き換わるなら、そのレジスト用原材料メーカーも需要を失う。崩れかけた橋の向こう側に行っても意味がない。
Q5: トクヤマのテーゼ5要素で「まだ調べないといけない」のはどの要素か?具体的に何を調べるか?
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②堀の検証 — ポリシリコン世界2位の堀4チェックを実データで回す。④定量評価 — 決算短信でセグメント別の半導体向け売上比率を確認し、来期利益への寄与度を計算する。⑤撤退条件 — 代替技術リスクと、中国の太陽電池用ポリシリコン過剰生産が半導体用高純度品に波及するシナリオを具体的に書く。