Lesson 8 — 線でたどる実践:テーゼが書ける企業を探す

Phase 2 2026-02-27 軸: 構造 / 金流 / 市場心理

L1〜L5のフレームワークを全て使い、実際の上場企業で「テーゼが書けるか」を判定する。NVIDIAから線をたどって4段、5社連続で「今は買えない」と判断し、最終的にPER15倍以下の隠れ銘柄にたどり着く。

0. フレームワークから実践へ

Phase 1(L1〜L5)ではフレームワークを学んだ。テーゼの5要素を知り、SK Hynixで「③が書けない → 買えない」と判断できた。

Phase 2では自分で企業を見つけて、5要素を全部埋める

Phase 1 vs Phase 2

Phase 1Phase 2
企業有名企業(SK Hynix、ASML)自分で見つける
数字架空のシミュレーション実際のPER・決算データ
判断「買える/買えない」の練習本当に買うかの判断

フレームワークは「何を調べるべきか」を教えてくれる。Phase 2は「実際に調べて判断する」。

1. 線でたどる — NVIDIAからの4段

L3で学んだパウロの手法:「この会社が儲かるなら、その上流で誰が必ず儲かるか」を1段ずつたどる。思考ステップの距離が遠いほど、市場が見ていない

NVIDIA起点の因果チェーン
0 NVIDIA GPU設計
1 TSMC 製造+CoWoS
2 TEL 製造装置
3 東京応化 フォトレジスト
4 ??? 隠れた川上
■ PER高い(織り込み済み) ■ テーゼ崩壊リスク ■ 候補

思考ステップの距離とPER

段数企業市場の注目度PERの傾向
0段目 NVIDIA 全員が見てる 50倍超
1段目 TSMC / SK Hynix 多くが見てる 20〜30倍
2段目 TEL / ASML 半導体好きが見てる 30〜40倍
3段目 東京応化 / 信越化学 一部が見てる 20〜30倍
4段目以降 ??? ほぼ誰も見てない 10〜15倍

パウロの投資候補3条件「PER15倍以下」に到達するには、3〜4段たどる必要がある。

2. TELの隠れた独占 — コーター/デベロッパー

TEL(東京エレクトロン)はL1で「全方位型の装置メーカー」と学んだ。各工程で1位ではないが、1つだけ事実上独占してる分野がある。

コーター/デベロッパー = ASMLのセット品

装置役割TELの世界シェア
コーター EUV露光のにフォトレジストを塗る 約90%
デベロッパー EUV露光のにパターンを現像する

ASMLのEUV装置が1台売れるたびに、TELのコーター/デベロッパーも必ずセットで必要になる。

TELの堀4チェック

チェック判定根拠
世界シェア コーター/デベロッパーで90%独占
垂直統合 複数工程カバーだが川上支配ではない
供給枯渇 塗布/現像の技術蓄積は簡単に代替不可
乗数効果 装置代はチップ最終価格のごく一部

堀はある。ただしASMLほど完璧ではない。でもそれでいい — ASMLはPER40倍超。TELの堀がASMLほど有名じゃないからこそ、③「なぜ今安いか」が書ける可能性がある。

製造装置セクターの構造的追い風

「一時的なブーム」ではなく「構造的」と言える理由:

要因メカニズム
工場増設 AI需要 → TSMC/SK Hynix CapEx拡大 → 装置購入
工程数増加 HBM層数増(8→12→16層)、3D NAND(200→300層) → 装置台数/工場が増加
技術移行 GAA、High-NA EUV → 既存装置の更新需要
保守ストック 設置ベース拡大 → 毎年のサービス収益が積み上がる

工場の数 × 1工場あたりの装置台数 — L4で学んだ「掛け算の爆発」と同じ構造。

3. 現実のPERを見る — 5社連続「買えない」

フレームワークは「何を調べるべきか」を教えてくれる。でも実際にPERを調べて初めて判断できる

NVIDIA
50倍超
買えない
SK Hynix
高PER
L5で確認済
TEL (8035)
36.8倍
買えない
東京応化 (4186)
28.9倍
買えない
トクヤマ (4043)
10-12倍
候補!

5社連続「買えない」は失敗ではない

テーゼの規律:③「なぜ今安いか」が書けなければ買わない

「買えない企業を買わない」ことがフレームワークの価値。5社連続で正しく判断できたなら、それはフレームワークが正しく機能している証拠

4. テーゼの賞味期限 — パウロと東京応化の実例

パウロは2025年10月に東京応化の分析記事を出していた。そこから2026年2月までに株価は大きく上昇。

2025年10月
パウロが東京応化の記事を公開。PERがもっと低かった → ③が書けた。
同時に「MOR化」「ドライレジスト」という2つの堀崩壊リスクも分析。
2026年2月
PER 28.9倍。③が書けない → もう遅い
市場が追いついた = テーゼの賞味期限が切れた。

テーゼの賞味期限(L5の復習 + 実例)

概念L5での学び今回の実例
③が消える 市場が追いつくと「なぜ今安いか」が書けなくなる 東京応化のPERが28.9倍に上昇
次の手 同じ因果チェーンの川上を線でたどる 東京応化 → さらに上流の材料メーカーへ
パウロの速さ 市場が気づく前に見つけ、追いつかれたら次へ 2025/10に分析 → 2026/2に賞味期限切れ

東京応化のテーゼ崩壊リスク

パウロの記事では、堀に対する2つの脅威が分析されていた:

脅威内容L5での分類
MOR化 化学増幅型レジスト → メタルオキサイドレジストへの技術パラダイムシフト 代替技術 = テーゼ崩壊
ドライレジスト Lam Researchが装置側でレジストプロセスを取り込む(ウェット → ドライ) 代替技術 = テーゼ崩壊

PERが高くて買えない上に、堀自体が崩れるリスクもある。二重の意味で「今は買えない」。

5. 崩れた線をたどらない判断

東京応化にテーゼ崩壊リスクがあるなら、その上流はどうか?

因果チェーンの健全性チェック
TEL
東京応化
MOR/ドライ化リスク
→ ?
上流材料
巻き添えリスク

因果チェーンの途中で堀が崩れるリスクがあるなら、その先をたどっても巻き添えになる。

新しい判断基準

L5では「テーゼ崩壊 = 撤退」を学んだ。Phase 2ではこれを応用:

状況判断
線の途中にテーゼ崩壊リスクがある企業がいる その先はたどらない
線の途中の企業は堀が健全だがPERが高い さらに川上をたどる価値あり

「線でたどれ」と言われたから闇雲にたどるのではなく、因果チェーンの健全性を見て判断する。フレームワークの機械的適用ではなく現実を見た判断

6. 隠れ半導体銘柄 — PERが低い構造的理由

線をたどった先で見つかる「思考ステップ4段目以降」の企業たち。これらのPERが15倍以下なのには構造的な理由がある。

なぜPERが低いのか — 3つの構造的理由

理由メカニズム
セクター分類の見落とし 本業のイメージで半導体と認識されない 住友大阪セメント(セメント会社がLN変調器を製造)
化学セクターの割引 化学会社全般のPER水準に引きずられる トクヤマ(化学会社だがポリシリコン世界2位)
小型株ディスカウント 時価総額が小さく機関投資家がカバーしない 宇野澤組、三和油化工業

これらはL5で学んだ③「なぜ今安いか」の構造的理由。情報が広まっても簡単には消えない = 市場のメンタルモデルが原因。

バリューチェーン上の隠れ銘柄マップ

レイヤー企業例PERが低い理由
半導体材料(最上流) トクヤマ(4043)、日本化学工業(4092) 化学セクター割引
製造装置部品 新報国マテリアル(5542)、帝国電機(6333) 小型株ディスカウント
パッケージング材料 日本化薬(4272)、巴川C(3878) セクター分類の見落とし
光通信部品 住友大阪セメント(5232) セクター分類の見落とし

7. 実践 — トクヤマ(4043)でテーゼ5要素を当てはめる

隠れ半導体銘柄の中で最も確信度が高いとされるトクヤマ。多結晶ポリシリコン世界2位、PER10〜12倍、過去最高益見込み。

トクヤマの基本データ

時価総額約3,145億円(中型株)
PER(予想)10〜12倍
2026年3月期見通し売上3,645億円、営業利益415億円(過去最高
配当利回り8.76%(特別配当含む可能性あり)
半導体関連ポリシリコン世界2位 + エッチング液 + 洗浄液 + 現像液
PERが低い理由「化学セクター」として評価。太陽電池用ポリシリコンの中国問題が株価抑制
1

なぜこのセクターか(構造的追い風)

AI需要爆発 → ファブ増設 + 技術移行で半導体材料需要が掛け算で膨らむ

2

なぜこの会社か(堀)

ポリシリコン世界2位。堀4チェックを回す必要あり — 世界シェア・供給枯渇・乗数効果は有望

3

なぜ今安いか(PER 10〜12倍)

「化学セクター」として分類 → 半導体材料メーカーとしての再評価が遅れている

4

どれくらい上がるか(定量評価)

半導体向け売上比率を決算短信で確認が必要。太陽電池用とのミックスが鍵

5

何が起きたら撤退か

代替技術リスク、中国の太陽電池用ポリシリコン過剰生産が半導体用に波及するシナリオ要検討

3つ埋まって、2つが「調べないといけない」

これがPhase 2の正しい状態。フレームワークは「何を調べるべきか」を教えてくれた:

  • ②の検証:堀4チェックを実データで回す
  • ④の計算:決算短信のセグメント情報で半導体向け売上比率を確認
  • ⑤の設定:代替技術リスク・中国リスクの具体的シナリオを書く

テーゼを書くとは「調べること」。フレームワークが優秀なのは、「何を知らないか」を教えてくれるところ。

8. Phase 2 第1回のまとめ

今日起きたこと

#アクション使ったフレームワーク
1 NVIDIAから4段たどった L3「線でたどる」+ L3「思考ステップの距離」
2 TELの堀4チェックを回した L3「堀4チェック」
3 5社連続で「買えない」と判断 L5「③が書けなければ買わない」
4 東京応化の代替技術リスクを判定 L5「テーゼ崩壊 vs 一時的問題」
5 崩れた線をたどらない判断 L5撤退条件の応用
6 PERが低い構造的理由を分類 L3「市場認知ギャップ」+ L4「織り込み度」
7 トクヤマで5要素を当てはめ L5「テーゼ5要素」すべて

Phase 1の全フレームワーク(L1〜L5)が統合的に使われた。これがPhase 2の目的:「知ってる」から「使える」へ。

🧠 セルフチェック

Q1: NVIDIAから3段たどった先に東京応化がある。東京応化のPERが28.9倍だった。次にどうするか?

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③「なぜ今安いか」が書けない → 東京応化は買えない。次は同じ因果チェーンのさらに川上をたどるか、別の線を探す。ただし東京応化にはテーゼ崩壊リスク(MOR化・ドライ化)があるため、その上流をたどるのはリスクが高い。別の線を選ぶべき。

Q2: TELのコーター/デベロッパーの世界シェアは約何%か?なぜこれが投資判断に重要か?

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約90%で事実上独占。ASMLのEUV装置とセットで必ず必要なため、EUV装置の販売台数に正比例して需要が生まれる。「全方位型 = 器用貧乏」という市場の印象とは裏腹に、特定分野で強い堀を持っている。

Q3: PERが15倍以下の企業が存在する「構造的な理由」を3つ挙げよ。

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(1) セクター分類の見落とし — 本業のイメージで半導体と認識されない(例:セメント会社のLN変調器)。(2) 化学セクターの割引 — 化学会社全般のPER水準に引きずられる(例:トクヤマ)。(3) 小型株ディスカウント — 機関投資家のカバー対象外で流動性が低い。いずれも市場のメンタルモデルが原因で、簡単には消えない。

Q4: 因果チェーンの途中で堀崩壊リスクがある企業がいた場合、その上流をたどるべきか?

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たどるべきではない。因果チェーンの途中で堀が崩れると、上流の企業も巻き添えになる。例:東京応化のフォトレジストがMOR化で置き換わるなら、そのレジスト用原材料メーカーも需要を失う。崩れかけた橋の向こう側に行っても意味がない。

Q5: トクヤマのテーゼ5要素で「まだ調べないといけない」のはどの要素か?具体的に何を調べるか?

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②堀の検証 — ポリシリコン世界2位の堀4チェックを実データで回す。④定量評価 — 決算短信でセグメント別の半導体向け売上比率を確認し、来期利益への寄与度を計算する。⑤撤退条件 — 代替技術リスクと、中国の太陽電池用ポリシリコン過剰生産が半導体用高純度品に波及するシナリオを具体的に書く。