Lesson 7 — 数字で語る:定量分析で投資判断を裏付ける

Level 4 2026-02-27 軸: 金流 / データ / 市場心理

「HBMは供給不足だ」——だから何? 需要は何GB?供給は何GB?ギャップは何%? 定性分析を数字で裏付け、確信を持って投資判断を下すフレームワークを学ぶ。

0. 言葉から数字へ

L3まではずっと言葉で語ってきた。「ASMLは独占」「HBMは供給不足」「信越は堀がある」——全部正しい。でも投資家として致命的に足りないものがある。

L3までの限界

レベルできるようになったこと足りないこと
L1バリューチェーンを説明できる全部「定性的」。数字がない。
L2ボトルネックを見つけられる
L3堀を判定できる

「HBMは供給不足だ」——じゃあ需要は何GB?供給は何GB?ギャップは何%?答えられないなら、投資行動は決められない。

1. なぜ数字が必要か — 同じ言葉、違う賭け方

2人の投資家がいるとする。2人とも同じことを言っている。

A 投資家A

「HBMは供給不足だ。SK Hynix買い。」

10%不足
小さいポジション
「来年には解消するかも」→ 短期

B 投資家B

「HBMは供給不足だ。SK Hynix買い。」

50%不足
大きくポジション
「2-3年は逼迫続く」→ 中長期で持てる

数字が決める3つのこと

#項目数字がないと数字があると
1 確信度 「なんとなく買い」 ギャップ50% → 強く張れる
2 時間軸 いつ売るかわからない ギャップ解消まで2-3年 → 持てる期間がわかる
3 織り込み度 今の株価が高いか安いかわからない PERが10%不足 vs 50%不足どちらを織り込んでいるか測れる

L3で学んだ「市場認知ギャップ」を、感覚ではなく数字で測る。それがL4。

2. 需要を定量化する — 掛け算の爆発

HBMの需要量をGB単位で計算する。必要な数字は2つだけ

HBM需要の計算式
GPU出荷数 年間N個
×
1個あたりHBM容量 X GB
=
HBM総需要 N × X GB

ここで面白いことが起きている。世代ごとに1個あたりHBM容量がどう変わるか:

GPU世代ごとのHBM搭載量

GPUHBM世代搭載容量前世代比
H100HBM380 GB
H200HBM3e141 GB+76%
B200HBM3e192 GB+36%

掛け算の両辺が同時に膨らむ

仮にGPU出荷数が横ばいだったとしても:

世代出荷数(仮)容量/個HBM総需要
H100100万個80 GB8,000万 GB
B200100万個192 GB1.92億 GB

出荷数が同じでも、HBM需要は2.4倍に膨らむ。

GPU出荷数 ↑ 増加中
HBM容量/個 ↑ 増加中

掛け算の両辺が同時に膨らむ = 需要は指数的に爆発する。定性的に「需要増」と言うだけでは、この爆発力が見えない。

3. 供給を定量化する — 歩留まりの壁

L2で学んだHBMの歩留まり(0.95n層)を、実際に数字で見る。

HBM世代と歩留まり

世代積層数理論歩留まり(0.95n100個投入 → 良品
HBM38層約66%66個
HBM3e8層約66%66個
HBM412層約54%54個
HBM3(8層)
66% 良品
34% 廃棄
HBM4(12層)
54% 良品
46% 廃棄

供給が伸びにくい構造

HBM4世代に移ると、同じ設備投資をしても良品が2割減る

需要側と供給側を並べると、構造が見える:

方向理由
需要 ↑↑ 掛け算で爆発 GPU個数 × HBM容量/個、両方増加
供給 → 伸びにくい 歩留まり悪化(0.95n)+ 設備投資にリードタイム

需要の掛け算爆発 vs 供給の歩留まり制約 = ギャップは拡大する方向。

4. ギャップ → 利益への変換

需給ギャップがあると、何が起きるか。L3で学んだ概念が効いてくる。

HBM需給ギャップ(イメージ)
需要
需要
供給
供給
↑ ギャップ = 50%不足 ↑

3つの条件が揃うとき

  1. 需要 > 供給(需給ギャップ)→ 作れば全部売れる
  2. 代替なし(HBM作れるのは3社だけ)→ 客は逃げない
  3. 乗数効果(HBMはGPUシステム全体の一部)→ 値上げしても受け入れる

この3つが揃うと:

項目効果
売上↑ 増える(数量増)
単価↑ 上がる(プライシングパワー)
利益率↑↑ 跳ね上がる(単価UP + 固定費は同じ)

需給ギャップの数字が、利益率の変化として現れる。数字を入れて初めて「どれだけ儲かるか」がわかる。

5. 実践 — SK Hynixで利益を見積もる

架空の数字でフレームを回してみる。

前提条件(仮の数字)

今期 純利益1兆円
時価総額15兆円
今期 PER15倍(= 15兆 ÷ 1兆)
需給ギャップ需要が供給の1.5倍(50%不足)
来期 HBM単価変化+30%
HBMの売上構成比40%

来期利益の見積もり

項目計算金額
HBM売上(今期) 1兆 × 40% 4,000億
HBM売上(来期) 4,000億 × 1.1(量)× 1.3(単価) 5,720億
HBM増分 5,720 - 4,000 +1,720億
来期 純利益 1兆 + 1,720億 約1.17兆円

注意:需給ギャップ1.5倍は「需要が供給の1.5倍」というギャップの大きさであり、出荷量が1.5倍になるという意味ではない。供給制約下では出荷量の伸びは限定的(+10%と仮定)。ギャップが生むのは単価の上昇

来期PERで「織り込み度」を測る

利益PERパウロ基準(15倍以下)
今期 1兆円 15倍 ギリギリ
来期 1.17兆円 12.8倍 余裕でクリア

定性分析だけの投資家は「PER15、微妙だな」で終わる。
数字を入れた投資家は「来期PER13倍まで下がる、今が買い時だ」と判断できる。

6. 感度分析 — 最悪でも結論は変わるか?

ここまでの計算は全部仮定の数字の上に建っている。単価+30%が+10%だったら?出荷量が横ばいだったら?

仮定が変わったら結論がどう変わるかをチェックする。これが感度分析(Sensitivity Analysis)

シナリオ HBM単価 出荷量 来期利益 来期PER
強気 +30% +10% 1.17兆円 12.8倍
中立 +15% +5% 1.08兆円 13.9倍
弱気 +5% ±0% 1.02兆円 14.7倍
✅ 全シナリオでPER 15倍以下 → どのシナリオでも「買い」の結論は変わらない

感度分析の核心

最悪のケースでも結論が変わらないなら、確信を持って張れる

逆に、強気でPER12倍だけど弱気でPER18倍——こういうときは「シナリオ次第」だから慎重になる。

感度分析の結果投資判断
全シナリオで基準クリア 確信を持って買い
シナリオによって割れる 慎重に。ポジション小さく
強気でもギリギリ 見送り。別の銘柄を探す

7. 補足 — 同じボトルネック、違う投資妙味

L2で学んだ5大ボトルネックのうち、HBMとCoWoSで比較する。

売上構成比で投資妙味が変わる

SK Hynix(HBM)TSMC(CoWoS)
ボトルネックHBMCoWoS
企業全体の売上に占める比率約40%一部
ボトルネック解消の利益インパクト大きい限定的
需給ギャップの数字化GPU出荷数 × HBM容量GPU出荷数 × インターポーザ面積

同じボトルネックでも、その企業の売上構成比でインパクトが変わる。数字を入れないと、この違いが見えない。

8. L4 定量分析フレームワーク

ここまでで学んだステップを整理する。

1

需要を定量化

GPU出荷数 × HBM容量/個。掛け算の両辺が膨らむ構造に注目

2

供給を定量化

設備能力 × 歩留まり(0.95n層)。世代が進むと良品率が落ちる

3

ギャップ → 利益変化を見積もる

需給ギャップ → 単価UP → 売上構成比 → 利益率改善

4

来期PERで織り込み度を測る

来期利益 ÷ 時価総額 → パウロ基準15倍以下か?

5

感度分析で確信度を測る

強気/中立/弱気 → 最悪ケースでも結論が変わらないか?

L4の一言まとめ

定性分析(L1〜L3)で「何を買うか」を決め、定量分析(L4)で「本当に買うか」「どれだけ張るか」を決める。

📖 このページの用語集

用語意味一言で
定量分析需給ギャップや利益変化を数字で裏付ける分析手法「どれくらい?」に答える
需給ギャップ需要と供給の差。需要 > 供給のとき「不足」ギャップの大きさが賭け方を決める
掛け算の爆発需要 = 個数 × 容量の両辺が同時に増える構造定性分析では見えない需要の伸び
歩留まり投入に対する良品の割合。0.95nで計算層が増えるほど悪化
来期PER来期予想利益で計算したPER。今期PERより重要「今の株価は来期を織り込んでいるか?」
感度分析仮定を変えて結論が変わるか検証する手法最悪でもOKなら確信を持って張れる
売上構成比特定製品の売上が全体に占める割合比率が高いほど利益インパクト大
プライシングパワー需給ギャップ + 独占 + 乗数効果で生まれる価格決定力値上げしても売上が減らない

🧠 セルフチェック

Q1: 同じ「HBMは供給不足だ」という定性分析でも、数字によって投資行動が変わる理由を3つ挙げよ。

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(1) 確信度 — ギャップが大きいほど強く張れる。(2) 時間軸 — ギャップがいつ解消するかで持てる期間が変わる。(3) 織り込み度 — 今のPERがどの程度のギャップを織り込んでいるかで割安/割高が変わる。

Q2: HBM需要が「掛け算で爆発する」とはどういう意味か?

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HBM需要 = GPU出荷数 × 1個あたりHBM容量。GPU出荷数も増加中、1個あたり搭載量も世代ごとに増加(H100: 80GB → B200: 192GB)。掛け算の両辺が同時に膨らむため、需要は指数的に増大する。出荷数が横ばいでもHBM需要は2.4倍になる。

Q3: HBM4(12層)の理論歩留まりは約何%か?HBM3(8層)と比べてどう変わるか?

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HBM3(8層): 0.95^8 ≈ 66%。HBM4(12層): 0.95^12 ≈ 54%。同じ設備投資をしても、HBM4世代では良品が約2割減る。供給は設備投資だけでは簡単に増えない。

Q4: 今期PER 15倍の企業が「買い」かどうかをL4的に判断するプロセスを説明せよ。

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今期PERだけでは判断できない。(1) 需給ギャップを数字で出す → (2) 来期の利益変化を見積もる(単価UP × 数量 × 売上構成比)→ (3) 来期PERを算出(時価総額 ÷ 来期利益)→ (4) 感度分析で強気/中立/弱気シナリオでも15倍以下か確認。全シナリオでクリアなら確信を持って買い。

Q5: 感度分析で「全シナリオPER 15倍以下」と「シナリオによって割れる」の場合、投資行動はそれぞれどう変わるか?

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全シナリオで15倍以下 → 最悪ケースでも結論が変わらない → 確信を持って大きくポジションを取れる。シナリオで割れる → 仮定次第で結論が変わる → 慎重に小さいポジションで、状況を見ながら判断。

Q6: 同じ「ボトルネック」でも、SK HynixのHBMとTSMCのCoWoSで投資妙味が異なる理由は?

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売上構成比の違い。HBMはSK Hynix売上の約40%を占めるため、HBM単価上昇の利益インパクトが大きい。一方、CoWoSはTSMCの売上の一部にすぎず、同じボトルネック解消でもTSMC全体の利益への寄与は限定的。数字を入れないとこの違いが見えない。