Lesson 1 — 半導体の第一原理からHBMまで

Level 1 2026-02-25 軸: 技術 / 構造

半導体とは何か → 微細化のメリットと壁 → ファブレス/ファウンドリ分業 → メモリの物理 → HBM(High Bandwidth Memory)の原理

1. 半導体 = 制御可能なスイッチ

第一原理

導体(銅線)は常にON。絶縁体(ゴム)は常にOFF。どちらもスイッチにならない。

半導体は電圧で導体/絶縁体を切り替えられる = 制御可能(controllable)

これがトランジスタ(transistor) — コンピュータの最小演算単位。1個のトランジスタ = 1個のON/OFFスイッチ。

トランジスタ = スイッチ

💻 プログラミングで言うと

if (gate_voltage > threshold) {
    current = ON;   // 導体として振る舞う
} else {
    current = OFF;  // 絶縁体として振る舞う
}
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2. 小さくすると何が嬉しいか

NVIDIAのGPU(Graphics Processing Unit / 画像処理装置)H100には800億個のトランジスタが載っている。「7nm」「3nm」はトランジスタのゲート長 — 小さいほど高性能。

微細化の3つのメリット

📐 重要な数式

  • 消費電力: P = C × V² × f — C(ゲート容量)とV(動作電圧)が下がる。Vは二乗で効くのが重要
  • スイッチング速度: τ ∝ R × C — RC時定数(R: 抵抗、C: 容量)が小さい→充放電が速い→クロック周波数を上げられる
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3. 微細化の2つの壁

トランジスタを小さくし続けると、2つの異なる物理的限界にぶつかる。この区別が重要。

作る壁と使う壁

重要な区別

作る壁(製造)使う壁(物理)
問題パターンを描けない作っても動かない
原因光の回折限界量子トンネル効果
解決 EUV(Extreme Ultraviolet / 極端紫外線)リソグラフィ
波長: DUV 193nm → EUV 13.5nm
GAA(Gate-All-Around)構造
ゲートでチャネルを全方向から囲む
担い手 ASML(オランダ、世界唯一のEUV製造企業) TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)/ Samsung
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4. なぜNVIDIAは工場を持たないか

半導体産業はファブレス(fabless = fab + less / 工場なし、設計専業)とファウンドリ(foundry / 受託製造専業)に分業している。

ファブレス/ファウンドリ分業

経済原理

最先端ファブ(fab = fabrication facility / 半導体製造工場)の建設費: $20-30B(3-4兆円)

1社では稼働率が埋まらない → 複数顧客で分担 = マルチテナントのクラウドと同じ論理

昔は「持たない」(戦略的選択)→ 今は「持てない」(物理的・経済的に不可能)

Intel(インテル)は自社ファブを維持しようとして微細化で2世代遅れた — 反面教師。

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5. メモリの物理 — なぜ階層があるか

コンピュータには速度の異なる記憶装置が階層的に存在する。速いほど高コストで容量が小さいというトレードオフがある。

メモリ階層

DRAM vs NAND — 物理的な違い

DRAM(Dynamic Random Access Memory)NAND フラッシュ(SSD)
物理的仕組みコンデンサ(キャパシタ)に電荷を溜める浮遊ゲート(floating gate)に電子を閉じ込める
速度~100ns(ナノ秒 = 10⁻⁹秒)~50,000ns(DRAMの500倍遅い)
電源切ると消える(揮発性)— コンデンサの電荷が漏れるため残る(不揮発性)— 絶縁膜で電子を閉じ込めるため
1GBあたりコスト高い安い
身近な例MacBook の「16GB メモリ」SSD(Solid State Drive)、USBメモリ

物理的な仕組みが違うから、速度と永続性のトレードオフが生まれる。どちらが良い悪いではなく、用途が違う。

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6. HBM(High Bandwidth Memory / 広帯域メモリ) — メモリウォールの突破

GPU(Graphics Processing Unit)の演算速度は毎年2-3倍で向上するが、DRAMの帯域幅は毎年1.1-1.2倍程度。この差が「メモリウォール(Memory Wall)」— GPUがデータ待ちで暇になる問題。

HBMの原理

HBMの解決策は物理的に2つ:

💻 プログラミングで言うと

// 従来DRAM = リモートAPI呼び出し(遠い・細い)
data = remote_api.fetch(bus_width=64)     // ~50 GB/s

// HBM = ローカル変数(近い・太い)
data = local_memory.read(bus_width=1024)  // ~4,800 GB/s(約100倍)

歩留まり(yield / 良品率)の数学

HBMはDRAMチップを8〜16層に積層する。全層が良品でないと製品にならない。

1層の歩留まり = 95% のとき:

  • HBM3e(8層): 0.95⁸ = 66% → 3個に1個が不良
  • HBM4(16層): 0.95¹⁶ = 44% → 半分以上が不良!

→ だからHBMを量産できるのは世界3社だけ: SK Hynix(韓国、シェア53-57%)/ Samsung(韓国)/ Micron(米国)= 構造的ボトルネック

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7. バリューチェーン — 今どこまで見えたか

学習進捗

上流3レイヤー(設計→製造→メモリ)を第一原理から理解した。次回はパッケージング(CoWoS: Chip on Wafer on Substrate)以降の下流を学ぶ。

📖 このページの用語集

略語正式名称一言で
GPUGraphics Processing Unit並列計算に特化したプロセッサ。AIの学習に必須
DRAMDynamic Random Access Memory高速だが揮発性のメモリ。PCの「16GBメモリ」はこれ
NANDNot AND(論理ゲートの種類に由来)不揮発性のフラッシュメモリ。SSD/USBメモリ
HBMHigh Bandwidth MemoryDRAMを積層してGPU隣に配置。帯域100倍
TSVThrough-Silicon Viaシリコンチップを貫通する電極。HBMの積層に必須
EUVExtreme Ultraviolet波長13.5nmの極端紫外線。微細パターンの描画に使用
DUVDeep Ultraviolet波長193nmの深紫外線。EUVの前世代
GAAGate-All-Aroundゲートがチャネルを全周囲むトランジスタ構造。リーク対策
TSMCTaiwan Semiconductor Manufacturing Company世界最大のファウンドリ。先端品シェア90%+
ASMLAdvanced Semiconductor Materials LithographyEUV露光装置の唯一の製造企業(オランダ)
CoWoSChip on Wafer on SubstrateTSMCの先進パッケージング技術(次回学習)

🧠 セルフチェック

Q1: なぜ半導体の「中間」であることが嬉しいのか?

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電圧で導体/絶縁体を切り替えられる = 制御可能(controllable)だから。固定のON/OFFではスイッチにならない。

Q2: 微細化で省電力になる物理的理由は? 数式で答えよ。

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P = C × V² × f。トランジスタが小さくなるとゲート容量Cが下がり、動作電圧Vも下げられる。特にVは二乗で効く。

Q3: 「作る壁」と「使う壁」の違いは? それぞれの物理的原因と解決者は?

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作る壁 = 光の回折限界(パターンが描けない)→ ASML(EUV露光装置)。使う壁 = 量子トンネル効果(リーク電流)→ TSMC/Samsung(GAA構造)。

Q4: NVIDIAがファブを「持てない」経済的理由は?

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最先端ファブは$20-30B。この固定費を回収するには大量のウェハが必要だが、NVIDIA単独では稼働率が埋まらない。複数顧客で分担する方が合理的(=クラウドの論理)。

Q5: HBM(High Bandwidth Memory)がメモリウォールを解決する物理的メカニズムは?

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①DRAMをGPU隣に配置(距離: 数cm→数mm)②TSV(シリコン貫通電極)で縦に接続してバス幅16倍(64→1024bit)。結果: 帯域約100倍(50→4,800 GB/s)。

Q6: HBM4(16層積層)の歩留まりが低い理由を、確率で説明せよ。

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各層の歩留まり95%として、全16層が良品である確率 = 0.95¹⁶ = 44%。半分以上が不良品になる。層数が増えるほど指数的に悪化する。